Flowers~魔界の花~ 本編vol.1

ED前ティアの話

キムラスカ・ランバルディア王国の印で封をされた招待状を元通りに折り畳むと、 ティアは今まで手を合わせていた石碑の横にそれをそっと置いて立ち上がった。
国賓扱いでそれは送られてきたが、差し出し人は恐らく、ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアであろう。

彼女とはここ暫く会っていないが、ルークが消えたあの日から二年間、彼女と文をやり取りしていた。
国の仕事が多忙であろう中でも彼女は何通も手紙をくれたのだった。
手紙を書くのが苦手なティアの出す、堅苦しい文面への返信はいつも、彼女を心配するナタリアの優しい文面であり、 それがティアの心を何度も癒してくれていた。
自分もそうとう辛い毎日を過ごしているであろうに、ナタリアはそんな事はおくびにも出さず、ティアの事を想ってくれている。

「・・・私も見習わなくてはいけないわ。」
真面目なティアは、ともすると沈んでしまいそうになる自分の感情を、そんな風にして前向きに押し上げていた。
現在彼女は、新しくローレライ教団の導師となったフローリアンを中心に、
やっと形を成してきた教団の運営を補佐しているテオドーロの手伝いをしつつ、情報部の仕事も平行して続けている。
大詠師にはトリトハイムが着任したので多少は安心しているが、預言にこだわる昔気質の裏派閥が消えない中で、気は抜けなかった。
フローリアンの周りは、アニスが先陣を切って守ってくれている。
直接会う機会は少ないが、彼女も毎日忙しくしている事だろう、とティアは想像する。

「預言の無い世界に慣れるには、人々はまだ何年もかかるでしょう。
でも必ず人は変われるわ。それをルークが身をもって教えてくれた。
私は預言に頼らないで生きられるという希望を、人々に浸透させていかなくては。その事こそが、私の生涯をかけた仕事ですもの。」
パンパン、と両頬を打って自分を叱咤しながら、ティアは部屋の出口に向かって歩き始めた。
「ティア。急な仕事だが頼まれてくれんか?」
「何ですかおじい様。」
朝一番に立ち寄るテオドーロの顔を見て、ティアはふと考える。
ローレライ教団とユリアシティの間で忙しく立ち回っているテオドーロは、ここ二年でとても老け込んでしまったように思える。

早く私がおじい様の代わりを務められる位になれればいいのに・・・。
年齢も経験もまだまだ未熟な自分ではあるが、少しでも早くそれに近づきたいと、毎晩遅くまで勉強もしている。
実際、仕事と勉強と訓練で、ティアの身体も疲れ果てていた。
「この所、譜術の威力が目に見えて落ちてきている事は知っておるな?」
「プラネットストームを閉じた事による影響の件ですね。」
「そうじゃ。もう少し持つかと思ったが、意外と早くその時期が来てしまった。
そのおかげで多くの第七音素譜術師達に動揺が走っているらしい。 素養の高い者には次もあるが、低い者やあまり多くを使えない者は職を失う事に恐怖を感じ始めているのだろう。
我らとしても、彼らが次に働ける仕事先を少しでも多く見つけておいてやりたいのじゃ。」

「仕事の斡旋、ですね。」
「うむ。そこで悪いのだが、この書簡をベルケンド研究所に届けてきて欲しいのだ。少しでも多くの人材を雇って欲しいのでな。 そのための補助金等々の草案が書いてある。その旨も合わせて伝えてきて欲しい。」
「承知しました。」
「今日は本来なら休みじゃろ。それが終わったら今日明日は好きにしてよいからな。」
「私なら大丈夫ですおじい様。」
「いやお前はこの所ずっと働きづめじゃ。ゆっくりしてきなさい。」
仕事をしている方が気が紛れるのだけれど、と思いながらティアは
「わかりました。」
と、テオドーロの好意を無駄にしないよう返事をして書簡を受け取ると、いつもの服装で外へ出た。

瘴気が晴れたユリアシティの空は今日も青い。
ルークのおかげでここでもこんな空が見られるようになったのだ。
彼への感謝と少々の淋しさを抱えながら、ティアは音機関都市ベルケンドへ向かった。
<vol.2へ続く>

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