DropsⅠ vol.2

ED後の話

「以上でベルケンド研究所からの報告を終わります。」
「ご苦労様でした、ティア。」
フローリアンはそう言うと定期報告書を受け取り、もしお急ぎでなければ、と問うた後、ティアに自分の向かい側の椅子に座るように促した。
程無くしてこぽこぽ、とエンゲーブ産の紅茶の良い香りが部屋中に漂ってきた。
淹れてくれているのはアニス・タトリンだ。


「新燃料を使った機関の開発技術の素晴らしさには、眼を見張るものがありますね。」
フローリアンは嬉しそうに、そしてほっとした表情でティアに言った。
「はい導師。音素や惑星燃料の代替燃料の発見は、皆に希望とやる気を起こさせている、という点でも、その功績はとても大きいと思います。」
彼に同意し、本当に良かった、という様な言葉を紡いだ彼女は、しかしどこか表情が硬い。

「ティア。どうかしたのですか?何か他に気になる問題でもあるのですか?最近、少々思いつめていられる様にもお見受けできますが・・・。」
フローリアンは今度は、心底心配そうな顔になってティアに言った。

まさかそんな指摘をされるとは思ってもいなかった彼女は慌てて、
「いっ、いえ!導師。そんな事はありません。」
と返事をし、
「すみません。私、あまり愛想が無くって・・・。」
と言って、彼女は真っ赤な顔になってしまった。

「導師。軍人たる者は、仕事中は感情を表には出さないものなんですよぅ?」
アニスがすかさず助け舟を出した。
「でもアニスはよく顔に出てますよ?顔だけじゃなく言葉にも・・・。」
アニスからそんな言葉を聞くとは思わなかった、という風に、さもおかしそうにフローリアンが返すと、
「私はいいんですぅ!一般論です、一般論!」
と、よくわからない自己正当化をして、アニスはぶぅ~っと顔を膨らませた。
「そんなにムキにならなくても。アニスの性格は僕はよく解っているつもりですから。」
とフローリアンはなだめた。彼は既に、アニスの言う事を相当上手に受け流すことができるようになっているらしい。
そんな姉弟のような二人を見て、ティアは微笑ましく思っていた。
つい柔らかな表情になってしまっていたティアに向かって、フローリアンは切り出した。

「僕は、何だか、この所あなたに元気がないように感じていたので、つい変な事を聞いてしまいました。すみません。心弱くなっているあなたにお話するのはどうかと思って、まだ言わずにいたのですが、僕は近々ケセドニアのアスター邸に呼ばれておりまして、実はそこで・・・」
と、そこまで続けた所で急に、
「導師っ!会議のお時間ですよっ!」
とアニスに会話を遮られ、じゃあ導師はお支度をしていて下さいね、その間に私はティアを見送ってきますので、と一気にまくしたてられて、フローリアンは隣の自室に無理やり押し込まれた。
その一部始終をきょとん、とした顔で見ていたティアは、アニスに手を引っ張られて、足早に部屋から退出した。

礼拝堂の長い廊下を歩きながら、二人は言葉少なだった。
”あの日”から二人きりで会うのは初めてだった。久々に会ったというのに、なんとなく気まずい思いで二人はダアトの町を歩いていた。
ティアはあまり自分からしゃべるタイプではないし、アニスもティアのどこか心あらずな雰囲気に、気軽に話かけられずにいたのだった。

「じゃあ、ここで。」
とダアトの門前まで来たティアが別れようとすると、
「─あのさっ!!」
意を決したように、アニスが声を張り上げて言った。
「解ったフリなんか、しなくていいと思うよ。」
ティアはその言葉に心からドキリ、とした。
「どうしてティアはすぐ我慢しようとするの?解らないことは、解らないって、ぶつかっていけばいいじゃん!」
アニスの言葉は相変わらず容赦ない。

「結局、あれきり、なんでしょ?ティアはそれでいいの?いいわけないよね?訳わかんないのはあっちの方なんだからさ。」
アニスはまるで、自分がティアの立場だったら、と思っているのかもしれない、という位に怒っていた。

何も言葉を発する事が出来ないでいるティアに、アニスは続けた。
「・・・このままでいいと思ってる、わけじゃないよね?」
ティアは答えない。
「じれったいなぁ!ティアがそれでいいなら私、もう何も言わないよ!
ティアからどうにかしたい、って言ってくれるかと思って心配してた私馬鹿みたい。
─ティアなんて、いつまでもそうやってイジイジしてればいいんだ!」
ぷりぷりと怒りにツインテールを躍らせて帰って行くアニスの姿を、ティアはその場に立ちすくんで見続けていた。

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