何年もの間、打ち寄せる波によってその所々を侵食されつつある、エルドラントの円柱を、ノエルはぼんやりと眺めていた。
先の戦争によって消滅したホド島のレプリカとして再生されたこの場所には、あの決戦の後にも何度か訪れていた。
ローレライを解放し、彼を他の六音素が漂っている音譜帯へと送るために、あの力を使って行方不明になってしまった“ルーク”を探すため、だ。
あの日、アルビオールに特攻をしかけてきた際に、イスパニア半島に墜落していた、ここエルドラントからは、タタル渓谷が良く見える。
その場所は、“ルーク”にとって始まりの場所であり、原点でもあったことを、ノエルは知っている。
一度終わったと思っていた旅を、再び“ルーク”を乗せて始める事になった時、彼女の胸は密かに躍った。
自分でも少なからず、ルークに淡い想いを寄せ始めていることに、ノエルは気付いていた。しかし、彼女は彼にそれを伝えるつもりはなかった。
“ルーク”とティアがお互いの存在をとても大切にしていることにも気付いていたからだ。
決戦前夜、彼らをアルビオールに乗せて海へ出たのも、最後に二人きりの時間を摂らせてあげたい、と本心から思っていた彼女なりの心遣いだった。
「私はルークさんに、幸せになって欲しかった。彼が大切にしていた方々にも、ずっと笑顔が宿っていてくれるのを願ってもいた。けれど・・・」
ノエルは、小一時間も前に、一人でエルドラント内部へ入っていった、ガイの後姿を思い出していた。