各国の代表者達が退室した後の、広々とした会議室の椅子に、一人残ったナタリアは、ここでそのまま待っていて下さい、ルークを呼んできますから、と言い残して別室へ向かったジェイドの事を考えていた。
「・・・わたくしは、大佐を少々誤解していたようですわ。」
アッシュとルークの間に起きたコンタミネーション現象の原因“ビックバン”の結果に関しての疑問を、彼にナタリアが問うた時も明確な回答は無く、しかもそれが起きる事を予測していながら、仲間達には一切、事前に教えてもくれなかった彼の、突き放した様な態度にナタリアは少々不審感を抱いていた。
二度目の旅に出る直前に勃発した、レプリカ部隊による襲撃事件の時も、マルクト軍を襲わせたのはキムラスカ軍であるかのように仕向けたのは彼の仕業だと思い込み、再会するや否や彼の胸倉を掴んで抗議したこともあった。
しかしジェイドが今回、アッシュに直接会いに行き、彼ともルークとも話をつけてくれていた事、彼らがこのような状態になっているかもしれない事を予想していたために、ナタリアの疑問にもはっきりとは答えてくれなかった事などの事情をナタリアは初めて知ったのだった。
「しかもセシル将軍にまで、わたくしの面倒を頼んでいて下さったなんて。」
ナタリアの脳裏に、ケセドニアでピオニーが言っていた言葉が浮かんでくる。 「物事の答えは一つじゃない。別の角度から見ればまた違った見方も出来る。その表現方法だって様々だ。表情豊かで得する奴もいれば、言葉足らずで損する奴もいる。後者は・・・うちのジェイドみたいに、な。」
ナタリアは、エルドラントでアッシュの結末をルークに聞き、泣き崩れてその場に留まっていた自分が皆に迷惑をかけた時、ジェイドに頬を叩かれて叱られたことも思い出した。
「普段、滅多なことでは怒らない大佐があそこまでなさったのは、わたくしだけに限らず、ルークやアッシュの事をも慮っての行動、であったのですわね。今回の件でわたくしは、やっとその事を真に理解出来たような気がします。」
何故アッシュがああいう態度を取ったのか、何故ルークが今まで会いに来られなかったのか、かいつまんだ簡潔な言葉で、ジェイドから聞いたナタリアは、即座にそれを理解し、そして自分の物の見方が一方的だったこと、思慮が浅かったことを思い知ったのだった。
「わたくしには、物事の本質、というものが見えていなかったのでしょうか。 あの頃のわたくしは、アッシュやルークの事も、真には理解してあげられてなかったのかもしれませんわね・・・。」
そんな事を考えていると、ガチャリ、と入り口の扉が開き、聞きなれた声の主が自分の名前を呼ぶのを聞いた。
「ナタリア!」
そう。この笑顔でしたわ。
わたくしが七年間見続けて、そしてわたくしに、自分が変わってゆく様、を見せて下さった人。
「・・・ルーク!」