「どうして?どうしてイオン様に会っちゃいけないの?!」
舌足らずの声で、アリエッタはイオンの私室の手前で、行く手を遮る神託の盾騎士団兵にくってかかった。
「すみません。どなたも中に入れるなとモース様に命じられているものですから、いくらアリエッタ様といえどもお通しすることは出来ません。」
頑ななその態度にアリエッタは俯き、とぼとぼと来た道を戻り始めた。
イオンに会えなくなってから約1ヵ月。彼の導師守護役である彼女が、こんなに長い間導師から離れるなど平素ではあり得ない事だった。
「すぐに会えるよって言ってたのに・・・。イオン様・・・どうして?」
大きな瞳に大粒の涙を溜めて、アリエッタはいつも持ち歩いている古ぼけたぬいぐるみをぎゅう、と抱きしめた。
それはダアト近くにそびえ立つ、ザレッホ火山の第7譜石のある洞窟でのことだった。
彼が秘預言を詠む時は、導師守護役でさえもその「場所」に入る事までは固く禁じられている。 同行していたアリエッタは、その入り口で彼が出てくるのを待っていた。
「ここ、暑いね・・・。イオン様、お身体大丈夫かな・・・。」
そう思うと不安で心が押しつぶされそうになってくる。
活火山の為、常に高温の溶岩が循環している内部の気温は非常に高く、正常な体調の持ち主からもその体力を否応なく奪う。
この所の彼は、少し無理をするとその場に倒れてしまうことが増えていた。 仕事が忙し過ぎるのが原因の様だが、大丈夫だから余計な心配はするなとイオンに念を押されている。
すると、俯いている彼女を慰めるかの様に“ぐるる”と2頭の獣達はその大きな頭をこすり付けてきた。
「あはは。あなた達、くすぐったい、です。」
常に彼女に付き添っている、フレスベルグとライガと呼ばれるその種族の獣達は、彼女にとっては戦闘仲間であり、友達であり、家族でもある。 そんな彼らと“きゃきゃ”と無邪気にはしゃぐアリエッタの眼に、唐突にその光景は飛び込んできた。