頬をなでる風が少し冷たくなってきた。
買い物袋を抱えたルークは、陽の暮れかかったシェリダンの、海原のよく見える展望台に佇んでいた。
今日はルークとティアが買い物当番で、さっきまで一緒に店巡りをしていたのだったが、薬品の仕入れの途中で昔馴染みに偶然会った彼女が立ち話をするのを邪魔しては悪いと、自分だけ少し離れたここへやってきたのだった。
しかしさすがにこれだけの荷物を一人で持って歩くのは辛かったので、そばにあったチェアに荷物を置きその横に腰掛けた。
「ふぅ。」
重たい荷物から一時的に開放され、やれやれと一息ついたルークは、あと半分で水平線に沈んでしまいそうになっている夕日を眺めていた。
「陽が沈む時って、こんなに早く感じるんだな。」
キラキラと光る水面を見つめながら、ふと自分の両手に視線を落とした。
この頃は日に何度も、自分の手が透き通って見えるようになっていた。
そんな時はこの水面の様に、自分の両手が光を放っているようにも感じた。
「俺が消えるのも、こんな風にあっという間なのかな。」
そう思うと急に不安になって、ギュッと両方の拳を握り締めた。
そんなルークの身体を心配して、毎晩ジェイドが診察してくれている。
彼は気休めの安い言葉でルークを慰めたりはしない。ただ一言、
「決して楽観できる状態ではありません。ですから無理は謹んで下さい。」
と言うだけだ。だがその言葉を聞く度ルークは、自分が選んだ自分の未来を自覚し、1日1日を大切にしようと思う。そしてまだ明日も生きられるんだ、と少しだけ嬉しくなる。
良くなっている、と言われている訳でもないのに不思議なものだ。でも今の自分には、ジェイドの言葉はとても誠実だ、と感じられる。昔の自分だったら、嘘でも大丈夫という言葉を聞きたがっただろう。
「俺もずい分変われたよな。」
ぼそり、とルークは呟いた。
実際は自分の最期を考えるととても怖い。出来ればこの不安を取り去りたい。でもそれでは駄目なのだ。この現実を直視しそれを受け入れなければ。この不安に、そして何よりも負けそうな自分に打ち勝ちたい。昔の様に都合の悪い事から逃げ出したりしたくはない。ルークは必死に後ろ向きになりそうな自分と戦っていた。
今日も生きられた。明日も生きられる。きっと明後日だって。でも・・・。
─消えたくない。消えたくない。消えたくない!
震える両手を重ね、自分のうつむき加減のおでこに押し当てた。その姿はまるで、何かに祈っているかのようにも見えた。