北極星 vol.1

オリジナルイオンの話

それは静かに、夜を伴って僕の所にやって来る。
暗い。どこまでも、どこまでも暗い闇。
視線の先にはもう何も映らない。
そして今度眼を閉じたら、二度と覚める事はない。


明ける事のない夜。暗い、暗いどこまでも続く無限の闇。
秘預言のせいで、何もかもが狂ってしまった。僕の何気ない日常も、僕の居場所も、僕の一生も、僕のささやかな夢も。何もかも。

ローレライ教団の地下で繰り広げられる、反乱分子にいわゆる─拷問─という形で制裁を加えていた“イオン”は、薄暗い気持ちでその光景を見ていた。 人間が死んでしまわない位の寸で止めて放り出すそのやり方は、周りの教団員の目を覆わせる程の酷さだったが、それを命令し実行させる“事”は、イオンには深くて暗い喜びを与えた。
死なないだけマシじゃないか。
無表情で次々と指示を出す時の彼は、命を司る“死神“にも似ていた。
僕はもうすぐ死ぬんだ。そしてそれは免れることは─ない。

導師エベノスが崩御した後、事前に秘預言で詠まれていた正統なる後継者。それが10歳にも満たない頃のイオンだった。
訳もわからない内にダアトに連れて来られて導師にされ、勉強と実習と、自由の利かない監禁されたような新しい生活。それでも始めは名誉な事だと思い、ただひたすらに努力していた。
辛い訓練にも耐え、導師としてやっていけると自分にようやく自信を持ち始めたあの日。
更なる秘預言を知ってしまった。
僕は死ぬ運命だったのだ。2年後の、あの日に。

「導師、今日はこの位にしましょう。やり過ぎは新たな反乱分子を生みかねません。」
「・・・ち。わかったよ、ヴァン。」
気分を損なわれた様子で、イオンはヴァン・グランツからぷいっと顔を背けてその場を離れた。ヴァンは部下に後始末を命じると、足早にイオンを追った。

Page Top