世界各地から集った荷車や馬車が、それらに運び運ばれる人々の群れと雑じり合い、大きなうねりを作りながら列を成して行き交っていた喧騒が
まるで嘘であったかのように、今は深い闇と静寂に包まれている。
この季節にしてはやけに重たい、昼間の熱気を過分に帯びた風は、ひと時も途切れることなく首元の襟をはためかせ続けている。
それらはまるで何かを急かす様でもあり、いつまでも辿り着けない何処かへ促すようでもあった。
その場所。
ルークは虚空を見つめた。
今生きているのが、世界で自分たった一人のような気がしてくる。
何も見えず 何も匂わず 何も触れず 何も聞こえず
ただ 息をしているだけ
泣くことも 笑うことも 怒ることも 悲しむことも無く
そしてそれを誰かに問うことも無い 自分だけの世界
眠ることも 食べることも 僅かな休息さえも許されず
ひたすら生き続けなければならない 永遠に続く回帰
あの頃とは似ているようで異なった、境界のない、無制限に広がる世界。
激しい風に胸がざわつく。
戻ってはいけない。
省みてはいけない。
立ち止まってはいけない。
俺に出来る事はただ、歩き続け、その場所へと、踏み出して前に進むだけ。
ルークは再び歩き出そうとした。
しかし足は動かない。
自分の身体すら意のままにならない。
どうしたらいいのかも、解らない。
ルークは、動けない自分に焦りを感じ始めた。
俺は…俺は…。