お二人へ。 本編vol.1

ED前ナタリアの話

「─姫?ナタリア姫?!」
招待状を見つめてしばらくぼんやりしていたナタリアは、メイドに呼ばれてやっと我に返った。
「何ですの?」
「インゴベルト王がお呼びです。急ぎ王の私室へ来るように、との事でした。」
「わかりました。すぐに参ります。」
一礼してメイドは返事を王に伝えるべく足早に部屋から出て行った。
今日は、昔より頻度の増えた、各地の慰問周りに出発する日だった。
朝から軽装に着替えて身支度をしていたナタリアは、今回廻る所の現状が記載された詳細な資料と、 王から各地の民への慰問の言葉を貰える様、予め頼んでおいたのだった。


「だめですわね、こんな事では・・・。しっかりしなくては。」
キュキュ、と手袋の紐を結びなおしてナタリアは立ち上がった。
ルークとのあの旅依頼、身支度は自分で済ませるようになっていた。
自分でやれる事は自分で。
王女としての作法より、もっと大事なことがあると思うからだ。
血筋ではなく、王女としての資質により深くこだわりだいと願う、彼女の決めた事柄のうちの、それは1つだった。

「入ります、お父様。」
「うむ。」
インゴベルト王の私室へナタリアが入ると、そこには王といつもの側近のほかに、珍しい人物が立っていた。
「セシル将軍!」
「ご無沙汰しております、ナタリア様。」
彼女はフリングス将軍の亡き後、暫く軍を離れていたが、最近になって復職したと聞いていた。
「ナタリア、これが今回の資料と伝簡だ。」
「いつもありがとうございます、お父様。」
側近からそれを受け取ると、ナタリアは王の方に向き直った。
「それと、今回はセシル将軍も同行させなさい。砂漠近辺は、最近また盗賊が出回っているらしいのでな。」
「わかりました。」
ナタリアはうなずくと、
「宜しくお願い致しますわね、セシル将軍。」
とセシルに向かって言った。
「こちらこそ、ご同行出来て光栄です、ナタリア様。」
そう言葉を交わした二人の間には、懐かしい空気が流れていた。
大切な人を失った者同士だけが持つ、思いやりの空気なのだろうか。
インゴベルトは深く温かく、労わるような眼で二人を見ていた。

「今回は砂漠近辺とケセドニア周辺の地域を周りますのよ。」
移動最中の馬車の中で行程をざっと説明した後、ナタリアは自分の席の隣に座るよう、セシルを促した。
「・・・本当にお久しぶりですわ、セシル将軍。もうお身体は大丈夫なのですか?」
あれからセシルは体調をもひどく崩した、とナタリアは聞いていた。
「ええ。皆様には本当にご心配をおかけしましたが、もう大丈夫です。ありがとうございます。」
そう言ったセシルは、前より少し痩せたように見えた。
「・・・聞いてもよろしくて?」と前置きをし、「なんでもどうぞ」と返事を貰ってから、ナタリアは聞いた。
「あれからどうなさっていらっしゃったの?」
セシルは一瞬眼を伏せたが、それからすぐに無理の無い微笑みを見せて話し出した。
「・・・あれから私は軍の仕事を休職し、朝から晩までぼんやりとする日々を送っていました。」
ナタリアの胸にズキリと痛みが走った。
「・・・自分では決着が着いていると思っていたのですが、そうではなかったのですね。 気付けば港へ行き、1日中海を眺めたりしていました。」
その頃を思い出したのか、セシルの両瞼が少し震えている。
「そうした日々が何ヶ月が続いた後、母に言われたのです。フリングス様ときちんとお別れをして来なさい、と。」
馬車の窓から光が差し込み、眩しそうにそれを眺めてセシルはとつとつと、話を続けた。

<vol.2へ続く>

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