お二人へ。 本編vol.2

ED前ナタリアの話

「いとこのガイに、あの服を渡した時点で私なりに心の整理が着いていたはずだったのですが、 母にはそうは見えなかったのですね。
マルクト帝国の方へ使いをやって、私がグランコクマにすんなりと入れるように手配をしてくれていました。
そして私に、「セシル家」としてではなく、ただの一人の女性、「ジョゼット・セシル」として行って来なさい、 と言って送り出してくれたのです。」
「・・・良いお母様ですわ。」
「ええ。結婚を決めた時もですが、本当に母には感謝しています。」
そう言ってナタリアの方へ振り返り、セシルは続けた。
グランコクマへ入ってもまだ足がすくんで動けなかった事、自分が入国したことを聞いて、 ピオニー陛下が謁見場に呼んでくれた事、 その後カーティス大佐が彼の墓まで案内してくれた事、ガイが例の服を彼の墓に捧げてくれていた事など。


「ピオニー陛下は仰いました。彼を死なせたのは、自分の責任である、と。一国を担う王である以上、 戦争によって死なせた民の命の全ては、王である自分が背負うべきものだ、とも・・・。
私はそれを伺って泣きました。悲しくてではありません。この様な立派なお方にお仕えして、彼は本当に幸せだったのだと、 この王の為に死ぬ事が出来て、本望であったに違いないと心から思えて、それが嬉しかったのです。」
「ええ。ええ・・・。」
ナタリアは、ピオニーの言葉に心を打たれた。
何と言う高貴さか。王としての覚悟、責任の重さは幾ばくのものか。
私もいつか、彼のようになれるだろうか。
「カーティス大佐も、ガイも、彼の死を心から残念だと言ってくださいました。それだけで充分です。 彼が皆さんに深く愛されていた事を感じ取れましたから・・・。」

それだけではない、彼もあなたを深く愛していらっしゃいましたわ。
礼拝堂でのフリングス将軍の最期を、ナタリアは思い出していた。
「彼の最期も大佐からお聞きしました。そして私も決意したのです。私の敬愛する、インゴベルト王の為に、 王女ナタリア様の為に、この身を生涯尽くそうと。」
「セシル将軍・・・。」
「そしてアスランも、この私の決意をきっと喜んでくれるだろう、と自然に思えたのです。
彼とは今の世では離れ離れになってしまったけれど、お互い心の深い所で、いつまでも繋がっているのだ、と。 そう感じることが出来てやっと、私は過去と決別出来たのです。」
ナタリアは泣いていた。涙が止まらなかった。

「つまらぬお話をしてしまいました。申し訳ございません。」
「いいえ!何をおっしゃるのです!セシル将軍!」
ナタリアは涙を拭って言った。
「何と言う凛々しさなのでしょう。大切な愛しい方を亡くされておりながら、ご立派ですわ・・・。 わたくしも、わたくしもあなたの様に強くなりたい。」
すると、一軍人の顔から離れたとても優しい微笑みを見せてセシルは言った。
「私の、あのボロボロの状態をご覧になったではありませんか。私は決して強い人間ではありません。
ただ、強くありたい、と思います。それが彼に対しての私の誠実さなのだ、と思って頂ければ。 彼に恥じない生き方をしたい、ただそれだけなのですよ。」
失礼します、と言ってセシルはナタリアの手を取った。
「ナタリア様の今の辛いお気持ち、お察し致します。でもそれに負けないで下さい。私達は生きています。今、ここに。
ルーク様達はきっと帰っていらっしゃいます。その希望は捨てずに、ナタリア様らしく輝いて下さい。 そうすればいつか、きっと。」
「・・・ありがとうセシル将軍。」
重ねられた両手を強く握り返しながら、ナタリアは言った。
「わたくし、負けませんわ。希望も捨てません。わたくしは、いつかあの二人に、 アッシュとルークに会った時に堂々と胸を張れる、二人に恥じない生き方をして見せますわ。」

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