手紙 本編vol.3

ED前ガイの話

いつもの散歩コース(より短め)を二人で並んで歩いていると、ふとジェイドが聞いてきた。
「それより届きました?招待状。」
めずらしく長々とぼんやりしていたガイは、急に現実に引き戻されたような顔をして答えた。
「あ?ああ。来たよ。バチカルには行くつもりはないけどな。」
「・・・ま、当然ですよね。」
ジェイドはそう言うと、足元をちょいちょいと指差した。
糞を拾え、と言うのだろう。ガイはしゃがんでそれらを拾った。
「他の皆さんはどうするのでしょうね?」
「さぁねぇ。最近連絡取ってないからわからないな。」
一通り拾い終えると渋い顔でガイは立ち上がった。
「バチカルのあの場所へ行く事は、俺にとっては全く意味が無いからな。」
「そうですね。」
臭いを放つ糞袋を片手に握るガイから少し距離を取って、ジェイドは続けた。
「もう二年・・・ですか。」
「・・・ああ。」
それきり二人共黙りこくってしまった。


本当に帰って来ないつもりじゃないだろうな、ルーク。
お前は帰ってきて、償いをするんじゃなかったのか?
俺にはそれを見届ける義務がある。
ホドの生き残りとして、ガルディオス家の当主として、そして
お前の心の友兼使用人として。

お前がこのままいなくなったら、お前を傍でずっと見続けてきた、俺の何年間の意味はどうなる?
お前と共に生き、育ち、そしてこれから一緒に生き続けてこの世界の為に何かやろうとしていた俺達の目標はどうなる?
家族も故郷も失った俺は、これからまたお前まで失ったまま生き続けろ、と言うのかルーク。
全く友達甲斐のないヤツだな・・・。

一歩後ろでブツブツと呟きながら歩くガイを、ジェイドは横目で見ていた。
この所ガイは一人で笑ったり、悔しがったり、時には何もいない空間に話しかけたりしている事が多い。
「まずい傾向ですね。」
とジェイドも呟く。

医術の方は専門ではないが、レプリカ実験の際に被験したオリジナルの方に、今のガイと同じような傾向が見られる場合がままあった。
被験自体が大きなショックを与え、突然明るくなったり暗くなったりする躁鬱の症状に、オリジナルの精神が蝕まれていく時の状態に良く似ている。
「ガイに限って、とは思いますが。」
元来、その手の病は元々神経質で生真面目、自分を深く追い込むタイプに多いのだが、ガイはどちらかといえばその正反対の性格だ。
ルークがいなくなった事で打撃を受けているのは勿論解っているが、それが病として蝕むほどガイの精神は弱くはないはずだ。
「女性恐怖症以上のトラウマになっている、とは考えにくいのですが・・・。」

考え込みながら視線を落として歩いていたジェイドがふと周りを見ると、不審そうにこちらを見ている人々の視線に気がついた。
ブウサギを大量に連れた身分の高そうな軍人と、糞袋を大量に持った貴族っぽい男が、二人でブツブツ言いながら街の中を歩いている姿は、 どこからどう見ても異様だ。
「ガイ!急ぎますよ!」
「?!あ、ああ。」
急に足早になったジェイドの後を、ガイは少し駆け足になって追っていった。

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