「ガイさん!」
「おお。ガイじゃないか。」
「やぁ。元気かいノエル。ご無沙汰しました、アストンさん。」
シェリダンの集会所にひょっこりと顔を出したガイに、二人はいつもの笑顔で迎えてくれた。
「ガイさん、今日はどうします?またいつもの操縦訓練でいいですか?」
うきうきと聞いたノエルに、
「いや、今日は違うんだ。別件でね。」
とガイが答えると、
「えー。そうなんですか・・・。」
と、飛べないのがとても残念そうにノエルは言った。
「ごめんな。操縦させてもらいに、また近々来るよ。それより、ピオニー陛下に火急の用件を頼まれてね。」
と言って、ガイはアストンに事の成り行きを説明した。
「なるほど。それならわしが教えるより、彼女に直接教わるほうが早いじゃろ。」
アストンは、ここシェリダンでオルゴール屋敷を管理している彼女の事を話し出した。
「父親の跡を継いで間もないが、彼女はオルゴールにとても精通しとるからな。よし。わしがちょっと行って頼んでおいてやろう。」
「ありがとうございますアストンさん。」
「ほいじゃの。」
そう言うと、年齢とは程遠い軽い足取りで、アストンは集会所を出て行った。
その場に残ったノエルとガイは、彼女の出してくれた紅茶を飲みながら、最近の音機関の話に興じた。
ノエルは兄のギンジが公式の仕事を全て持っていってしまうので、自分は飛ぶ機会が減ってとても悔しい、 ルークさん達と各地を飛び回ったあの頃が懐かしい、と言って少し淋しそうに微笑んだ。
「だから、ガイさんにももっと頻繁に来て頂きたいのです。そうすれば私も、胸を張って空に出やすいですし。」
「ほんとごめんな~、ノエル。俺ももっと来て音機関に触りたいんだけど、なにせ陛下に毎日色んなヤボ用で呼ばれちゃってさ。」
ガイは心からすまなそうに言った。
「お仕事なら仕方ないですよね・・・。ガイさんもここでの仕事に就けたら、私も毎日お会い出来るのに・・・。」
そう言うとノエルは「あ、しまった!」という顔をして、ボボッと頬を赤らめた。
「ノエル?」
「あ、私、整備作業が残ってますんで、これで失礼しますっ!」
ガイの返事も待たずに、ノエルは脱兎の如く集会所から出て行った。
ぽつ─んと1人取り残されたガイは、ポリポリと頭を掻くと、近くにあった最新号の音機関雑誌を手に取った。そこには
“どうなる?!これからの譜業技術!
─現行惑星燃料に替わる新燃料開発の最先端─”
という見出しがついていた。
「世界は変化に合わせてどんどん進化している。変わっていないのは俺だけ、か?」
パタンと雑誌を閉じるとガイは勢い良く立ち上がり、
「・・・いい加減、俺も変わらなくちゃいけないのかもしれないな。」
と言いながら、自分の頭をごんごんと二、三度叩いた。
「でも昔のままの俺で出迎えてやりたいんだ・・・。」
丁度そこへ戻ってきたアストンに礼を言い、挨拶を交わすとガイはそそくさと集会所を後にした。
<終>