DropsⅡ vol.3

ED後の話

ショーの合図のブザーが鳴り始めるのを聞き届けると、舞台袖に待機していた “彼”は、裏口からそっと外へ出た。
その途端、ケセドニア特有の、生暖かく湿り気を含んだ風が、砂埃と共に真正面から吹き付けてきた。
パンパン、と苦々しい顔で服の埃を払う仕草をした“彼”は、すぐ側に立っていた番人らしき大柄の人物に何か耳打ちすると、スタスタと市場の方へ歩き始めた。
今日、いつもよりかなり人出が多い気がするのは、マルクト帝国が祝日の連休に入っているからだろうか。
バーニング・サングラスをかけ、頭につけていたカスクを目深に降ろすと、“彼”はあるテントの脇道に入っていった。


「あいつ・・・ここに住んでたんだぁ。」
物陰からその様子を見ていたアニスは、彼が最後に入っていった建物を見渡した。ここはケセドニアの商人が、護衛を頼む傭兵などが仮の住まいとしてよく使う、と言われている長屋住宅のエリアだった。この場所とあの格好から推測して、どうやら彼もそのような仕事をしているらしい、という結論にアニスは達した。
ケセドニアの豪商人アスターの屋敷に、今日の午後招待されているフローリアンの供をして、ここケセドニアまでやってきたアニスだったが、道中の長旅で体調を崩したフローリアンを早めに屋敷まで送って休ませてもらっている間、市場まで買い物に来ていた。その時に、人混みの中で見知った後姿を見つけて、こっそり後をつけてきたのだった。
「そうするとやっぱり、アスターさんもこの事で・・・。」
そこまでつぶやいてから、“う~ん”とその場でしゃがみ込み、考え事をし出したアニスは、いきなりポン!と肩を叩かれて心底驚き飛び上がった。

「きゃっ!!」
「いよ~ぅアニス♪元気そうだな。」
「ピ、ピオニー陛下!!それに・・・」
「久しぶりですね、アニス。」
振り返ると、いつもの軍服とは違う、えらく派手な色の服を着たジェイドと、ぱっと見、20歳代に見えなくもない、これまた若い格好をしたピオニーが、アニスのすぐ後ろにしゃがんでいた。
「大佐までぇ?!どうしたんですかこんな所で!」
「それはこっちのセリフですよ。」
建物と建物の間の狭い場所で、ひそひそと三人は話し始めた。
「わ、私は導師のお供で来てたんですけど、約束の時間まで間が空いちゃって。んで、市場で買い物をしている時にあいつを見かけて・・・・って、あ。」
しまった、という顔をしたアニスに、
「わかってるから大丈夫だ。」
とピオニーは答えた。
「実は、私達も彼の後をつけて来てたんです。そうしたら、途中であなたが前を歩き出したので。それからはあなたについて来ちゃいました~。」
と、今度はジェイドがいつもの調子で言った。
「ん~もう!なら声掛けて下さいよぉ~!」
ぶぅーと脹れたアニスに、まぁそう怒るなって、と言ってピオニーが続けた。

「ということは、もしかして導師もアスターに呼ばれてるのか?」
「え?じゃぁ、陛下もですかぁ?」
「ああ。今日の午後だろ?なら恐らく同じ件だな。」
互いに向き合ったまま、三人は少しの間無言になった。
「・・・ナタリアも呼ばれてるのかな?」
「─どうだろうな。」
同じ心配をしていたらしいアニスとピオニーに向かって、この話を今日聞いたばかりのはずのジェイドが口を挟んだ。
「それはない、─と思います。」
「え?」
驚いて聞きかえすピオニーに、ジェイドは、
「キムラスカ王国のセシル将軍から、本日はナタリアとベルケンドへ向かいます、との連絡を受けておりますので。」
と、さらりと言ってのけた。
「???」
何でそんな事を知っているんだ、という風に、ピオニーとアニスは同時に顔を見合わせた。

Page Top