DropsⅧ vol.4

ED後の話

廊下の窓から外を眺めていたガイは、お待たせ、とアニスに元気よく声を掛けられて振り返った。
「先、譲ってもらっちゃってゴメンね。あたしはもう済んだから、次はガイの番だよ。早く行ってあげて。」
アニスはそう言うと、ヒラヒラ、と手を振りながら廊下を走って遠ざかっていった。


ガイは一度深呼吸すると、扉の前に立ってドアノブに手を掛けた。
いざルークと1対1で会う、となったら自分の右手が少し震えているのに気が付く。
途端に沸いてきた実感にガイが開けるのを途惑っていると、扉のほうから勝手に開いてくれた。

「ガイ!待たせたな。入ってくれよ。」
ガイの視線の先には、髪も伸びて、少し大人びた体格になった、けれど笑顔は昔のままのルークの姿があった。
部屋に入りこうして二人で向き合って立っていると、昔と同じ様な時間が一気に戻ってきたようにガイには感じられた。

「・・・よく戻ってきてくれた。」
「会いたかったぜ、ガイ。」
二人は左手と左手で改めて固く握手を交わした。
「さぁ。俺のほうは、ガイの罵倒を聞く準備は出来てるぜ。」
少しおどけてルークが言うと、ガイは、ばしっ、とルークの肩を叩いた。

「お前は・・・本当に・・・心配ばっかさせやがって。」
ルークに会えた喜びと、目の前に彼が立っているという事実への感謝に、ガイはそれを言うのが精一杯だった。
「・・・うん。ごめんな、ガイ。」
そんなガイの様子に、ルークの声も詰まった。

「お前には、俺が小さな頃から・・・いや、俺がこの世に生を受けてからずっと、世話になりっ放しだった。そんなお前に何の恩返しも出来ずにいたことは、今でも心苦しく思ってる。」
「そんな大層なもん、いるかよ。」
ガイが答える。
「さっきも言ったけど、お前にもう一度こうして会うことが出来た。それで充分だよ。」
「ガイ・・・。」

「そりゃ本音を言えば、最初戻って来た時、俺らから離れようとするお前が理解できずに恨んだりしたし、こんなことになるんだったら、 エルドラントで俺だけでもお前に行くな、と言っていれば、などと後悔したりもしたけどさ・・・。
でも今となっては、全てが今日、再会する時のためのものだった、と思えば納得も出来るんだ。」
ガイは照れくさそうに心情を吐露した。
そんなガイを見てルークは、
「・・・お前はいつも、相手の事を先に考える奴、なんだよな。」
と言った。

「俺に負担をかけないように言葉を選んで話してくれる。お前のそんな優しさに俺はずっと甘えっ放しだった。」
「ルーク。」
「俺はこれまでお前に育てられてきた様なもんだ。でも、もう俺を甘やかさなくてもいい。俺はいい加減、その居心地の良い場所から旅立たなくちゃ。
だからお前はそろそろ自分の事を優先しろ。俺のような甘ちゃんには、その優しさは返って毒だ。」
ルークがニヤリ、とした顔でそう言うと、ガイは、その言葉を真正面から受け取ったようだった。

「そうか・・・。お前の足を引っ張っちまってたかな、俺。」
苦笑しながら頭を掻くガイに、
「違う、そうじゃねーよ。」
と間髪入れずに否定するとルークは続けた。

「お前の支えがあって、俺はここまで生きてこれた。そんな安らぎの場所をくれたお前から、俺は今、離れようとしてる。そして、それは別れじゃない。言うなれば・・・巣立ち・・・かな。」
そしてルークはガイに近づいて抱きついた。
「俺は、お前と出会えて心から良かったと思ってる。エルドラントで俺を黙って行かせてくれた事、さくっと帰って来い、待ってるからな、と言ってくれた事、本当に嬉しかった。
俺がいなくなったとしても悲しまないで欲しい。俺はお前という場所から巣立っていくんだ。」

「ルーク。」
「俺は今、幸せだ、と思える。本当だ。だからお前にも幸せになって欲しい。これが、俺がお前に伝えたかったことだ。」

「・・・解ったよ。」
そう言うとガイもルークを抱き返した。
「お前のいない世界は少々淋しいが、お前が今、幸せだと感じて行くのなら俺も安心だ。これからはなるべく優先的に、自分の事を考えて生きるようにするさ。」

お互いがお互いを見つめ続けてきた日々。
そして二人とも、ここまで成長して来られた。
その日々も、もうすぐ終わりを迎える。
そんな過去の感傷にも別れを告げるように、二人は暫く抱擁していた。

名残惜しそうにお互いが離れると、ガイはルークに、新生ホドの再建に着手している今の自分の状況を伝えた。
それを聞いたルークは、
「お前も約束通り、自分で未来を切り開き始めているんだな。」
と嬉しそうに頷き、そんなお前にだからこそ、俺は最後に我侭を一つだけ置いていく、と言って切り出した。
「─ティアを、頼む。」
<終。 ─Ⅸへ続く─>

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