DropsⅧ vol.3

ED後の話

「・・・またこうして会うことが出来ただけで俺はもう充分だよ。」
外していた視線をルークに戻してガイが言った。
「ガイ!」
アニスが叫ぶ。


「本来であればあのまま俺達は、ルークに会うことは出来なかったはずなんだ。意識だけでも残ってくれたことに俺は感謝している。」
ガイは静かに続ける。
「・・・確かにタタル渓谷で再会して、もう昔のルークじゃない、と言われた時は、なんで名乗ってくれないのか恨めしく思ったりもしたが、それでも今こうしてルークは会いに来てくれた。あの時アッシュが、ああせざるを得なかった理由もルークの口からきちんと聞くことが出来た。俺はそれで満足だ。」
「ガイ・・・。」
アニスとルークがガイを見つめる。

「アニスはルークに言いたいこと言ってやれ。これで本当に最後だからな。」
そう言うとガイはアニスの頭にポン、と手を乗せ、ルークに目配せをすると、 部屋から一人出て行った。
残されたルークは、同じく残されて、納得できない様子で俯いているアニスに声を掛けた。

「アニス。ぬか喜びさせちまったようで悪かったな。」
ルークは片膝を付くと、下からアニスの顔を見上げて言った。
「・・・なんでルークが謝るの?」
アニスは小さな声で返事をした。

「仕方ないことなんだよね。仕方ないことなのに、あたしがワガママ言ってるだけだもん。ルークが謝る必要なんてないよ・・・。」
そうは言ったアニスだったが、再会できた喜びと、突きつけられた現実への辛さに落胆し、うな垂れ続けていた。
そんなアニスの肩に左手を置くと、ルークは話し始めた。

「アニスは知り合った頃から正直だったもんな。口に出すことで、お互いがぶつかり合いになるのが解っていても、いつもストレートに言ってくれた。俺はそうしてもらうことで、自分が知らなかった色々なことに気付く事が出来た。ありがたいと思ってる。」
「・・・あたし、ルークに酷いこと一杯言っちゃってたしね。」
「そりゃ初めはビックリしたし、訳もわからずにいた頃は、自分で考えさせられて怒ったりしたけどさ。でもそうする内に分かった事があるんだ。」
ルークは昔を思い出すような顔になって言った。

「自分に対してぶつけられる他人の言葉を、受け取り方によってどんな風にも考えられるだろ。俺はそれが善意でも悪意でも、自分にむけられているもの全ては、自分に課せられた試練、とでもいうのかな、そんなものとして受け取ろうと思えるようになったんだ。」
アニスはじっ、とルークの言葉に耳を傾けていた。
「自分という人間は、色んな顔を持っている。そしてそれは色んな所で色んな仮面に付け替えたりはするけど、 それを見てくれて間違いを指摘してくれる、他者がいて初めて、自分の輪郭の全容が分かる。 だから人は一人では生きられないんだなぁ、って思ったんだ。」
「ルーク・・・。」

「アニスが見た俺、俺が見たアニス。 他の人が見たらまた違う形を作っているかもしれないけど、俺が見たアニスは、自分の感情に正直で、欲しい物は自分で掴み取る。 まぁ、金持ち相手には可愛く見せたりもするけど、それは手法であって、親しい人間には腹黒さ全開、とかな。」

「もーっ!前半持ち上げといて、後半全然褒めてないじゃん!」

はははは、と笑うルークを、ぼすっ、と叩いて抗議したアニスだったが、顔は怒ってはいなかった。
「家庭環境もあったかもしれないけど、そんなアニスの強さが、俺にもイオンにも眩しかったし羨ましかった。
だからアニスには、いつまでもそのままでいいんだよ、そのままでいて欲しい、って事を伝えておきたかったんだ。」

「・・・ありがと。ルーク。」
アニスはぽすっ、とルークの首に抱きつくと、そっと耳元で呟いた。
「・・・もしいつかキムラスカに戻る事があったら、ローレライ教団のアニス・タトリン宛に寄付をお願い、って、アッシュによく言っておいてね・・・。」

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