DropsⅨ vol.2

ED後の話

「・・・久し振りだな、ナタリア。」
「会いに来てくださったのですね、ルーク。」
二人はお互いの手を取り合って再会の言葉を交わした。
その声もその仕草も、間違いなくナタリアの知っているルークのものだった。


「まず礼を言わせてくれ。生き残ったレプリカ達の生活を、この短期間でここまで安定させてくれて、本当にありがとう。」
そう言うとルークは、ナタリアにペコリ、と頭を下げた。
「まぁ、ルーク。それがわたくしの役目ですもの。わたくしが、ガイのお姉様と約束したのです、当然のことですわ。でも、その現状をあなたに知っていただけて、とても嬉しく思います。」
ナタリアが答えると、ルークはすまなそうに笑って、
「ナタリアは、会いに来ない俺等の今の状況を、理由を知らなくても恐らくは理解してくれている、と前にジェイドに聞いてはいたんだ。でも実際は色々心配してただろ?お前にも・・・あいつにも、こんなに迷惑かけちまってほんとに悪いと思ってる。」
と言った。

「何をおっしゃいますの!わたくしはあなたの幼馴染みであり、あなたはわたくしの大切な友人です。遠慮などいりませんし、謝る必要もありませんわ。」
そう言ってナタリアは、握りこぶしを作って、ルークの胸に軽くパンチをする仕草をしてみせた。
ルークはそれを受ける真似をして笑い、そして、ありがとう、と言った。

「屋敷で暮らした七年間、お互い真実を知らなかったとはいえ、ナタリアは俺を支え続けてくれた。そして旅に出て、あいつに会ってからも、俺を幼馴染みの“ルーク”として見てくれた。本当に感謝してるし、・・・嬉しかった。」
だから、とルークは続けた。
「出来ることなら、俺はこの世界で生き続けて、伯父上やナタリアを、俺の出来る範囲ででも支えていきたかった。・・・でもそれはもう出来なくなっちまった。本当にごめん。」

「そんなこと!・・・そんなこと、いいのです・・・」
「うん・・・。ナタリアはそう言うと思ってた。ただ俺が謝りたかっただけなんだ。もし俺が残れたら、お前が自分の身体を酷使して、追い詰めるまで働くことに対してストップをかけてやれたのかな、とも思うし。」
「ルーク・・・」
「・・・でも、きっとあいつは違う。」
それを聞いて、はっ、とした顔をしたナタリアにルークは言った。

「あいつはきっと、ナタリアを止めたりはしない。好きなだけやれ、って、お前が満足するまで存分にやれ、って言うと思う。それでもし倒れるようなことになったとしても、お前はそれで本望だろう、ってさ。」
「それは・・・」
「でもそれってさ、ナタリアの事を一番よく解ってる人間の言葉だよな、って思うんだ。心配して止めることは悪い事じゃないけど、止めたことで、いつかそいつに後悔させちまうかもしれない。そしてきっと俺は止める方の人間で、あいつは止めない方の人間だ、と思うんだ。」
「ルーク。」

「だからナタリアには、自分の信じた道をそのまま進み続けていって欲しいんだ。自分が納得できるまでやり続けて、もしも倒れた時には・・・きっとあいつはお前を助けてくれる。今の俺にはそう思える。」
ナタリアは息を潜めている。
「ナタリアのその、竹を割った様な性格も、几帳面すぎるほどのはっきりした考え方も、きっとあいつは理解して受け止めてくれる。その大きさを、あいつは既に持ってるよ。」
そしてルークは、自分のおでこに人差し指を押し当てて、こう言った。
「軌道を外れた時にはきっと、修正させようとしてくれるだろ。・・・あの眉皴の寄ったおっかない顔と、耳を塞ぎたい位のでかい声でさ。」
その時のアッシュの顔真似をしたルークを見て、ナタリアはくすっ、と笑った。

「わたくし達が会うときはいつも、アッシュはあの顔でしたものね。」
昔の道中を思い出してナタリアは言った。
「・・・まぁ、あいつにあんなツラさせてたのは、俺なんだけどな。」
ルークはそうは言ったが、彼は昔ほど自分を責めている様子ではなく、それは、ごくごく自然に彼から出た言葉のようであった。

「あの時、あいつを本当に理解していたのはナタリアだけだった。お前には、あいつの本質がちゃんと見えてた。俺はそんなお前をすごいと思うし、やっぱりあいつをきちんと解ってやれるのはお前しかいない、と思ってる。」
「ルーク。」
「だからこれからも、あいつを信じ続けてやってくれ。素直じゃない所も、まぁ大分直っては来たけど、まだ少しは残ってるからな。」
ルークは親しい家族を思いやるような、暖かく優しい瞳でナタリアに言った。

「ナタリアの存在があいつには大切だ。そしてナタリアも同じ様に思っているなら、その気持ちを大切にして欲しいんだ。お互いのその想いが、お互いをきっと支えてくれる。・・・側にいても、いなくても、な。」
じっ、とそれを聞いていたナタリアは、自分の胸に当てていた手でルークの両手を包むと、穏やかに微笑んで言った。
「・・・ありがとう、ルーク。わたくし信じ続けますわ、彼の事を。もう迷ったりはしません。そう思い込むのではなく、今は心からそう思えるのです。」
そんなナタリアの笑顔を見てルークもほっとしたように微笑んで言葉を結んだ。

「・・・そうか、安心したよ。それでこそ俺の知ってるナタリアだ。」

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