DropsⅨ vol.5

ED後の話

「そのままで聞いていて欲しいんだ。」
会話が暫く途切れた後、ルークは、自分の今の状況や、会うのが遅くなった理由などを短く、解り易いようにティアに話した。
その間ルークは、話が進むにつれ、徐々にティアが身体を硬くしていくのを、自分の両腕で感じ取っていた。
ルークが全てを話し終わっても、ティアは一言も言葉を発しようとはしない。
ただ、ルークの胸に顔を埋めたままティアは、この現実を受け入れようと必死になっているようにもルークには感じられた。


「・・・ティア。怒っても喚いてもいいんだぜ。お前の気持ちは全て受け止める覚悟で、俺はここに来たんだから。」
ルークはそう言ったのだが、ティアはふるふる、と首を振った。
「そんなこと・・・しないわよ・・・。」
やっとそれだけを答えてルークを見上げたティアの顔は、ルークの想像とは逆にとても穏やかだった。

「私、最初は、あなたに会ったらきっと、自分は取り乱してしまうだろう、と思ってた。でも、さっきあなたに会った瞬間に、そんな感情は何処かへ吹き飛んでしまっていたわ。そしてあなたの顔を見て、こうして言葉を交わすだけで、どんどん穏やかな気持ちになっていく自分がいたの。
・・・それで思ったの。もう何を聞いても驚くまい、って。もしもそれが辛い現実だったとしても、私は全て受け止めよう、って。あなたに、こうしてもう一度会うことが出来た、という事は、こんなにも私を強くさせるものだったのよ。」
「ティア・・・。」

「あなたは約束を守ってくれた。例えそれがどんな形であっても、守ってくれたことは事実だわ。だから私は、あなたを信じて良かった、と心から思うわ。本当よ、ルーク。」
澄んだ瞳でルークを見つめてティアは言った。
「だから、あなたの姿が私の眼に映らなくなってしまったとしても、あなたの心は私の中にある。私の記憶があなたを忘れない限り、私の中であなたはずっと生き続ける。そうでしょう?ルーク。」
「・・・言いたいこと、お前に先に言われちまったな。」
ルークは照れたように横を向いて鼻頭を掻くと、ティアはやっぱ、すげえな、と言った。

「最初に会った頃と変わらない。いや、今はそれ以上だよ。俺はいつもお前を尊敬してた。そして思ってた。いつか俺もティアのように強くなりたい、って。」
ルークはティアを真っ直ぐに見つめていた。
「でも一緒に旅をしながら、お前の強さは悲しみに裏打ちされたものだった、と知った。どんなに悲しくても、それを自分の中に秘めて、でも、目を逸らすんじゃなく、許容してそれに打ち勝つ。その覚悟があって、お前の強さは成り立っていた。俺は益々お前には敵わないんじゃないかって思ったんだ。」
「・・・。」

「けど自分がこうなって、やっと俺にもその強さってやつが備わったように感じるんだ。ティアにも負けない、って威張れるほどには、さ。」
「ルーク・・・。」
「俺はもうお前の側にいてやることは出来ないけど、心ではお前の事をいつまでも見守ってる。志高く、強く生きるお前を、俺はずっと応援してる。だからティアはティアらしく生きてくれ。」
「ルーク。」
「でもさ、もしも心が折れそうになった時には我慢しないで、人に甘えることも、たまにはしろよ。な?」

「・・・解ったわ。」
ティアの声が震えた。
「今までありがとう、ルーク・・・。そして、ずっと、これからも・・・」

言葉が途中で途切れたティアの瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。
ルークは左の親指でそれを拭うと、

「・・・この世界で、でしか出来ない事を、最後に1つしてもいいか。」
と言って、ティアの唇に自分の唇をゆっくりと重ねた。
<終。 ─Ⅹへ続く─>

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