DropsⅨ vol.4

ED後の話

「兄さん。ルークがもうすぐここへやって来るわ。」
ユリアシティの自室の庭に建てた、亡き兄“ヴァンデスデルカ”の石碑に向かって、ティアは話しかけていた。
ナタリアと別れてから気持ちが落ち着かずにいたティアは、ヴァンの石碑の前で長い間、こうして跪いていたのだった。
先程、マルクト皇帝ピオニー九世が、ルークがもうすぐここへやって来る事を、直々にティアに伝えに来てくれた。
あれ程願っていた彼との再会が、とうとう目前にまで迫り、ティアは少々緊張していた。


「兄さんが彼に剣術を教え、彼は兄さんに認められたいと願った。兄さんは、そんな彼に超振動を引き起こさせ、彼は、そんな兄さんの計画を阻止してくれた・・・。」

ルーク。
やっと、もう一度あなたに会うことが出来る。
あの頃と何も変わらないこの庭。
でも、兄さんとルークがいなかった。
私と共に彼を待ち続けてくれたこの子達。
そのセレニアの花々は今日も、この庭一面に咲き乱れていた。

「あなたも彼に会いたかったでしょう?・・・私もよ。」
ティアが話しかけていたのは、ヴァンだけになのか、セレニアの花々になのか、それとも自分自身になのか。

祈るように両手を胸の前で合わせ、少し俯き加減だったティアの背後から突然、新しい風が彼女を包みこむように吹いてきた。
ティアは風の方角を感じながらその場で立ち上がり、そして、ゆっくりと振り返る。
前方から彼女に向かって歩いてくる、焔色の髪を持つ人物の姿をティアの眼は捉えていた。
セレニアの花々に囲まれながら歩みを進める彼の姿はまるで、あの日のタタル渓谷での風景と重なって見えた。
ティアは、その人物の名を呼ぶ。
ルーク。

「俺の約束を果たしに来たんだ。・・・遅くなってごめんな、ティア。」
「・・・いいの。いいのよ・・・」
ゆっくりと近づき、向き合って微笑み合ったルークとティアは、再会を果たせた事を実感して、互いに瞳をうるわせていた。
「会いたかった・・・ルーク。」
「俺もだよ、ティア・・・。」
ルークが会いに来てくれた。
そう思った瞬間に、ティアはルークの胸に飛び込んでいた。

「会いたかった。会いたかったの。ルーク。」
何度も何度も、そう言葉を繰り返すティアを腕の中に抱きながら、ルークは、うん、うん、と何度も頷き返していた。
二人はかろうじてその言葉だけを紡ぎあう。
蘇ってくるあの頃の日々。

ルークの胸に顔をうずめたまま、ティアは肩を小さく震わせていた。
ティアの想いが彼女の体温を通して伝わってくる。
ルークは心の中で、こんなに待たせて本当にごめんな、と繰り返していた。

こうしていると、ティアはまるで幼い少女のようだった。
多くを語らず、自分の腕の中で泣きじゃくっているティア。
ルークは今初めて、彼女の奥にひっそりと隠れていた、繊細な心の琴線に触れることが出来たような気がしたのだった。

ティアの髪を撫でながら、暫くしてルークは静かに話し始めた。
「あの日もこんな風に、セレニアの花の匂いが渓谷一帯に漂っていた。
降り立ってから既に右も左も分からなくなってたから、その香りがする方向へ歩き出したんだ。そうしたら遠くから、懐かしい歌声が聞こえてきたんだ。
・・・ティアの大譜歌、だった。」
こくり、とティアは無言で頷いた。

「その声に導かれて、やっとあの場所に辿り着けた。変わりたい─。そう決意したあの時も、俺の前にはティアがいた。・・・ティアはそんな風に、いつも俺の道標だった。」
とつとつと語るルークの顔を見上げてティアは言った。
「セレニアの花達もそして私も、あなたが戻る日をずっと待っていた。帰ってくるあなたの道中に、私達が少しでも手助けになれた、というのなら、それはとても嬉しく思うわ・・・。」
「ティア。」

「・・・ごめんなさい。子供みたいに泣いてしまったりして。」
隠れて頬を拭っているティアにルークは、いいんだ、と言って微笑んだ。
「恨み言でも何でも、ティアの言う事は余すことなく聞くつもりで来たしな。」 そう言うと、少し悪戯っ子の様な顔になってルークはティアを見た。

「しかし、こんな可愛らしいティアを、あの旅ででも見たかったなぁ。」
「・・・・・・バカ。」

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