迷い猫 vol.2

アリエッタとオリジナルイオンの話

神託の盾騎士団の主席総長であるヴァン・グランツが、青白い顔でひどく息の荒くなっているイオンを抱きかかえて、足早にモースと共にその洞窟から出てきた。
「─イオン様ぁっ!!」
アリエッタは半ば叫びながら、イオンの元に駆け寄ったが、途中でどたどたと走ってきたモースに止められてしまった。
「導師は大変お疲れになっている。これ以上近寄るでない!」
「でも─!」
モースに掴まれた腕を振り払おうとしていると、
「アリエッタ。心配無い。」
いつもの冷静な口調でヴァンが言った。


「今回は詠む量がかなり多かったのだ。導師の身体にもいつも以上に負担がかかってしまった。しかし何日かお休みになれば、またすぐにお会いできるようになるであろう。それまでは大人しくしていなさい。よいな?」
「はい・・・総長・・・。」
しょんぼりとアリエッタはその場に留まった。ヴァンにそこまで言われては信じざるを得ない。
俯いた彼女の脇をわらわらとすり抜けていった、神託の盾騎士団兵達に周りを何重にも囲まれて、先を歩くヴァンとイオンの姿はあっという間に見えなくなっていった。

昔、両親も故郷も失ってライガに育てられていた彼女を引き取って育ててくれ、人としての生活のいろはを教えてくれたのはヴァンだった。
そして野生児同然でダアトに連れて来られた彼女を、イオンはヴァン以外の他人として唯一、彼女を可愛がってくれた人間だった。彼に教わった事もとても多い。二人への感謝の意から、その後、彼女は神託の盾騎士団に入団したのだった。
(イオン様がお休みになられている間、体力回復に効くあのキノコを採りに出かけよう。沢山沢山持って帰って、そしてイオン様に食べてもらおう。)
そう決めると、アリエッタはすぐに旅立ちの準備を始めた。我ながらのよい考えに少しだけ晴れやかな気分になった。
しかし、彼女がイオンに会えたのは、結局その日が最後になってしまった。

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