迷い猫 vol.3

アリエッタとオリジナルイオンの話

強い敵が多く、キノコロードから戻ってくるのに思ったより大分長く、時間がかかってしまった。少しでも早く届けないと!
アリエッタは戦闘でボロボロになった制服もそのままに、山積みに盛ったキノコのカゴに前方の視線を遮られ、小さい体を半ば埋もれさせながら、ヨロヨロと教団の廊下を歩いていた。
「イオン様、褒めてくれるかな・・・。」
うららかな春を連想するような、イオンの柔らかい笑顔を想像してアリエッタは照れて一人で顔を赤らめた。
「アリエッタ、イオン様が喜んでくれるなら、何でもしてあげたい・・・です。イオン様がアリエッタにしてくれたように、温かく、優しく、したい・・・です。そしていつまでも側にいて、大切に、大切にお守りする・・・です。」


やっとイオン様に会える─。
そう思うだけで彼女の心は幸せと嬉しさで満ち溢れた。
長い廊下の、一番奥にあるイオンの私室の前まで来て、アリエッタはその入り口の扉から出てきたモースにまた止められてしまった。
「ここから先は入れんぞ。戻りなさい。」
「え?」
一瞬何を言われたのかわからなかった。きょとんとして彼の細い眼に横広がりの鼻がついた顔を見つめていると、
「導師は体調が完全に回復しておられない。今はまだ誰ともお会いになれん。お許しが出るまでここには来るでない。」
と事も無げにモースは言い放った。
「だって総長は・・・。」
「アリエッタ!」

大声にビクリと身体を強張らせた彼女に彼は続けた。
「これは導師命令だ。導師守護役であるお前が命令無視などあり得まい?」
そこまで言われたら戻るしかない。悲しい気持ちになりながら、しょんぼりと廊下を戻ろうとすると、
「それは私が導師にお渡ししておくから置いていきなさい。」
キノコのカゴを指差してモースは言った。
「でも・・・」
イオンの喜ぶ顔を間近で見たかったが、身体を治してもらう方が何よりも先だ。しぶしぶわかりました・・・です、と返事をするとカゴをその場に置いて、アリエッタは長い廊下を戻っていった。

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