深海 vol.5

シンクの話

かつて一度は憎んだ、レプリカイオンは消えた。
救う価値も無い人間達などに、秘預言を詠んだために。
過去に余計な遺物を残した、ユリア・ジュエの子孫であるヴァンの妹、ティア・グランツの体内に残る瘴気を、消えゆく自分の身体に受け取って。


レプリカのくせに、アイツはどれだけお人好しなんだ。
預言は未来の選択肢の一つだ、なんて信じてたアイツは、僕に言わせれば相当な甘ちゃんだった。
僕にはアイツの死は犬死だった、としか思えない。
それがアイツの願いだったと言うのなら、僕にはやはり理解出来ない。
だけど何故だ。
どこまで行っても僕はアイツに負けた気分しか残らない。
むしろこの世から先に開放されたアイツに、羨ましささえ覚える。

「アイツも自分の目的を果たして、救われたのか。」
レプリカイオンの死は、シンクの中に更なる虚ろな空洞の増加と共に、目的達成への強い衝動が広がるのを加速させた。
アリエッタも消えた。
育ての親ライガの敵を討つために、しかもオリジナルイオンまでも奪われたと、最期まで誤解して憎み続けた、アニス・タトリンに決闘を申し込んで。

・・・いや。本当は、誰かのせいにすることで、自分を生き続けさせていたのかもしれない。それだけオリジナルへの恋慕が強かった、という事なのだろう。
それが誰かを愛する、ということなのか?
他人の為に自分を犠牲にするなんて無意味だ、と思っていたシンクには、それをきちんと理解することは出来なかった。 誰も彼に、それを教えたりしなかったし、シンクもそれを教えて欲しいとも思わなかった。
ただ、アリエッタの下がり眉のついた顔を思い出す度に、何か温かいものが胸の中に湧き上がり、 彼女を微笑ましく思うのは何故なのだろう、とは思う。
こんな感情は一体何と呼ぶのだろう。

哀れなアリエッタ。だが決着をつけた事で彼女は満足出来ただろう。
そして今もまだ、暗い、暗い海の底にいる自分。僕も早く決着をつけたい。
僕の中の大きな空洞は、自分が消えて初めて完全に埋まる、と思える。

こんな自分と同じ様な存在は、もう二度と作り出されないようにしなければ。
僕の様な存在を作る元凶である預言。
そしてそれを詠む為の第7音素、ローレライ。
そんなもの、この世から永遠に消えて無くなればいい。
それらを消滅させるために僕は、自分の意思で僕を生き続けさせて来たんだと、今は思える。
目的を果たすのは他の誰の為でもない、この空洞を満たしてから消えたいと願う、自分自身の為なのだ。

「─試してみようよ。アンタ達と空っぽの僕。世界がどっちを生かそうとしているのかさぁっ!!」
<終>

Page Top