深海 vol.4

シンクの話

「シンク、一緒にここを脱出しましょう!僕らは同じじゃないですか!」
「違うね。僕が生きているのはヴァンが僕を利用するためだ。結局使い道のあるヤツだけがお情けで息をしてるって事さ!」
─アイツとは永遠に解り合えない。ベクトルの向く方向が正反対だ─。
シンクは自分が抱えている暗い闇などおそらく見た事も感じた事もないであろう、レプリカイオンの澄んだ顔を見て、彼へ初めての強い衝動が湧き上がった。


レプリカイオン。
僕と同じく奴のレプリカのくせに。だったらお前も僕の様になってみろよ。
その君子ばった顔もお前から放たれる言葉も、僕にしてみれば嘘っぽくて反吐が出そうだ。
この世に存在する事への嫌悪も、生き続ける事の虚しさも、味わった事がないくせに。
まるで乙女かと見紛うばかりのその細い身体も、夢物語の英雄のように真っ白で純朴なその精神も、お前の何もかも。
壊してやりたい。こっち側に引きずり込んでやりたい。
自分の、この汚れた、要らない両手で。

けれど結局、アイツに負けたのは自分の方だった。
地核の底へ落下しながら、シンクは次第に光り始めた自分の身体を、人ごとの様に眺めていた。
この身体を構成する音素と元素が、徐々に分離している。そして僕はこのまま消えるのだろう。そう、それはまるで、火口の溶岩で溶けて沈んでいく様な、深くて暗い海の底へ落ちていくような感覚だ。

─ああ。これでやっと開放される。あの苦しさから。あの空虚な世界から─。
自分を形作っていた外殻が、段々と見えなくなってきている。
─ヴァンの目的への助力は尽くした。残りは彼らがやってくれるだろう。
この世に思い残す事など初めから何も無い。早く開放されたい。何よりも呪い憎んだ、自分の運命から─。
シンクは生まれて初めての安らかな気分を味わっていた。

しかし、その静寂な時間も長くは続かなかった。
聞き覚えのある、低音でよく響く声が聞こえてくる。
落下していたシンクの身体は、その声の主に抱き止められていた。

「お前にローレライの力を分け与える。今少し生き延び、私に力を貸せ。」

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