春嵐 vol.2

ED前ルークの話

垂直に切り立った荒々しい崖が続く、長い海岸線に砂浜は無く、すぐ側に海原は広がっている。
この街の最も低い場所に架かっている橋の欄干を覆ってしまう程に水嵩は増し、潮は脈々と満ち続けてゆく。
ともすると、足元をすくわれそうな錯覚に陥る。


お前は俺を、ここから救い出してくれるのか。
それともそこへ、俺を引きずり込もうというのか。
ルークは、迫り来る底無しの不安から逃れようと必死にもがいた。
そんなルークの脳裏にその光景は郷愁を持って蘇る。

あの頃は毎日が、嫌で嫌で堪らなかった。
そこから逃げ出したくて仕方がなかった。
自由、といわれるものが欲しかった。
そこを出たことは、自分の意思ではなかったとはいえ、後悔などしていない。
でも今なら、それがどれほど貴重で、どんなに大事なものだったのかも解る。
同じ事の繰り返しでも、穏やかで温かだった日々。
そして、離れているからこそ、見えてくるものもある。

この世界の何処かに、自分が求める“その場所”は存在する、という訳ではなかった。
それは誰かが作ってくれるものではない。ましてや誰かにあてがわれるものでもない。
例え逃げ出せたとしても、その先は果てしなく自由で、果てしなくあてどない。
“その場所”は自分自身で作るものなのだ、とルークは知った。

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