春嵐 vol.3

ED前ルークの話

ルークは名前を呼ぼうとしたが、どうしても思うように声が出せない。
喉の奥がひりついて、その膜を震わせるのを拒んでいる。
こんな心もとない存在の自分。
一人じゃ何も出来ない俺は、見限られて置いていかれたのか。


ルークは、自分を形作っているものが、境界線を無くして彷徨い出している様に感じ始めた。
次第に離れてゆこうとしている「モノ」達を力ずくで引き寄せようとしたが、その手はただ虚しく宙を切るだけだった。
彼らは意思を持っている。繋ぎとめることは出来やしない。
そう解っていても、ルークは必死に掴もうとした。

(俺を見捨てないでくれ!)

そう叫んだ途端に足の力が抜け、ルークはそのまま地べたに座り込んだ。
両手でぎゅっ、と自分の身体を抱きかかえる。

(誰か、お願いだ…。)
爪が腕に強く食い込む。
(そうでなけりゃ、俺は…。)
堪えていた涙が溢れた。
悲しくて、淋しくて、空しくて、心が、痛い。

漂ってくる花々の匂いが鼻をつく。
自分にとって新しい気候の訪れは、終わりであっても始まりではない。

(俺は、きっと…。)

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