Circle vol.2

ED前ジェイドの話※架空設定

ND2006。マルクト帝国軍 作戦本部。
「お呼びでしょうか、マクガヴァン元帥。」
「おおジェイド、やっと戻って来おったか。まぁ入ってくれ。」
そういうと、マクガヴァンは本部内にある、奥の部屋の扉前に彼を招いた。

約2年前、導師エベノスの仲裁により結ばれたはずの、キムラスカ・ランバルディア王国とマルクト帝国間の停戦協定の抑止力は、時が経つにつれ両国間で力を失い始めていた。
互いの憎しみの感情は徐々に膨れ上がり、最近では各地で小競り合いを頻発するようにまでなって来ていた。

平時は作戦会議に参加するメンバーしかいないはずのこの部屋には、向かい側に何室かある兵士達の待機場所すら既に置く場所が無く、やむを得ず持ち込まれた兵器と軍事物資の山々や、戦後処理で上司の命を受けにやって来る平兵士達で溢れ返っていた。
「こんな状況ではおちおち話もできんわい。」
「全くですね。」
そう言って二人は奥の部屋のテーブルを挟んだソファに向かい合って座った。

「早速で悪いが用件を言おう。実は、先のホド戦争に関わる案件が、未だに色々と浮上してきておってな。当時、例の実験施設の隠蔽工作は無事成功に至ったのだが、何故だか最近になって、あの実験に関係する漂流物が、かなりの量で北の地に流れ着いておるらしいのだよ。」
「北、と言うと、ケテルブルグに・・・ですか?」
「左様。」
珍しく疲れているのか、マクガヴァンは眼とこめかみの辺りを交互にさすりながら続けた。

「ケテルブルグ港の警備をしている部隊から先程報告があった。回収は随時しているらしいが、どうやら我が国のマークの入った資料の切れ端などもあるようなのだ。」
「おかしいですね。例の資料は作戦実行前に、全て軍で引き上げたと聞いていますが。」
ジェイドは要領を得ないといった表情で、マクガヴァンの顔を見やった。
「いやまぁ、そこはあいつらの事だろう、最低でも最重要極秘資料に関しては、ぬかりなく回収させたと思っているよ。というよりもだな、どうやらその中に含まれている圧倒的に多い資料の中身が実は、もう1つの件の物らしいというのだ。」
「それはもしかして、私が最近関わっている方の実験の事でしょうか?」
「うむ。」
それを聞いて、ジェイドは思わず舌打ちしたくなった。
「疑いたくはないが、その資料がホド戦争時の漂流物ではないとすると、最近になって流出した物と考えられるのだ。勿論、お前が無用意にそんな重要な物を、国外に持ち出すはずが無いことはわかっている。ほれ、もう一人いるだろう。そういう部分が並の一平卒以上に無用意な人間が。」
「・・・サフィールですね。」
「おそらくは、な。」

マクガヴァンは困ったものだ、とため息をついた。
もっとも、ため息をつきたいのはジェイドの方であったのだが。
「あいつは根っからの研究者、というか、そういう所まであまり気が回らないらしい。お前の方が、余程奴を知っているとは思うが。」
常に実験の事しか頭に無い、ある意味一途なサフィールのやけに細長い顔を思い出して、ジェイドは更にイライラとした。
「ただの馬鹿なのですよ。」
そう軽く吐き捨ててから、私としたことが元帥に失礼ですね、と思い直し話を続けた。

「では私は、その資料「らしき」物の検分と後始末に行ってくれば良いのですね。」
「うむ。事務処理で多忙な所を悪いが、行ってきてくれるか?」
「承知致しました。こちらこそ元帥にお手を煩わせてしまい、申し訳ありません。」
「いやいや。ジェイド坊ちゃんの関係する仕事ならば、多少私にも責任があるからな。」
わっはっは、と一笑すると、マクガヴァンは急に真面目な顔つきに戻って、ジェイドの眼鏡の奥にある、深紅の瞳をじっと見つめてきた。

「・・・ジェイド。お前に今更こんな事を言うのもなんだが、わしはあまり感心せんな。普段物事にあまり執着の無いお前が、そこまであれにこだわる理由はなんだ?」
「元帥はそう思っていらっしゃると思っていました。」
瞳をぴくりとも動かさずに、ジェイドは答えた。

「一度死んだ人間を、兵器に転用して再利用するなどという実験は、倫理的にも問題が無いとは言えません。しかし私は、兵器以外の道をも模索していくつもりなのです。そのためには、ネクロマンサーという名ですらも、受け止めなくては・・・っと失礼、ついしゃべり過ぎました。」
ジェイドは眼鏡の位置を直しながらソファから立ち上がり、
「それでは早速現地に向かいます。」と言って、踵を返してドアの方へと足早に歩き出した。
「後悔だけはせぬようにな・・・。」
マクガヴァンはその後姿を見ながら小さく呟いていた。

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