Circle vol.3

ED前ジェイドの話※架空設定

マルクト帝国領、最北海の街―ケテルブルグ。
私が幼い頃を過ごした街。あの人に出会ってそして、あの人を・・・永遠に失った街。

ジェイドは多少のやましさを覚えながら、街に一歩足を踏み入れた。
港での検分作業が思ったよりはかどったので、さして重要ではない残りの部分は部下に任せて、一人街へとやって来たのだった。
「まだあの抜け道は通れるだろうか。」
養子に出されてからもう何年も会っていない、バルフォア家の両親の元に向かうわけでもなく、あの日から自分の事を、まるで別人を見るかのような眼差しになってしまった妹に会うわけでもない。
そのまま真っ直ぐに、サフィールの家の裏庭にまだあるはずの、例の隠し扉へと向かった。23歳にもなって、いまだ軟禁状態にある可哀想な(?)王子ピオニーに会いに行くためだ。

どうやら奴は最近、私の妹ネフリーと恋仲になっているらしい。
(知りたくもないが、サフィールから聞かされていた。)
あのスケベ王子の顔を見るのも何年ぶりか。
「きっとあいつはあのまま、だろう。」
ジェイドの予想は、ピオニーの部屋につながった隠し通路から抜け出た瞬間に、的中したのが容易に見てとれた。

「久しぶりだなぁジェイドォ~!やっと来やがったか!待ちわびたぜ~。」
相変わらずゴミだらけのソファから立ち上がり、ピオニーはにじり寄ってきた。
唐突に暖炉から現れた土埃だらけのジェイドを見ても、ピオニーはさしてびっくりした様子もなく、今までいくら呼び出しても会いに来なかったジェイドへの愚痴をさんざんに続けた。軽口を叩くにしても、ジェイドがピオニーに対していちいち敬語を、それも流暢に使いこなすようになっていた事に対しても憤慨しているようだった。

「それはそうと、お前のある噂を聞いたんだが。」
しばらく談笑した後、急に真面目な顔になってピオニーが切り出した。
「どの噂の事でしょう?私も顔が広くなったものですね。」
そうジェイドがおどけて見せても、ピオニーは、普段はあまりしない真面目な顔のままだった。
「お前、まだあの実験を続けていたのか。」
「・・・・・・。」
ジェイドは黙り込んだ。
「いずれまた後悔することになるぞ。お前、それをちゃんとわかっているのか?」
その話は聞きたくない、という風に、踵を返して帰ろうとしたジェイドに、ピオニーは容赦なく続けた。
「俺はお前がやっている事を否定はしない。ただ、傷口に接ぎ当てをするようなことだけはするな、と言っている。」

グサリ、ときた。
ピオニーはいつだってそうだ。
ジェイドの行動にいちいち意味をつけて、しかもわざわざそれを自覚させようとする。
ふふふ、と作り笑顔で振り返ったジェイドを見ても、ピオニーの顔は笑ってはいなかった。
「・・・私がそんな貧乏くさい真似をすると思っているのですか?」
と、ジェイドは言い返した。そうは言ったが本当は、そう返すのがやっとだった。

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