お二人へ。 本編vol.3

ED前ナタリアの話

ほぼスケジュール通りに慰問を周って、最後の地ケセドニアに入ると、ナタリアはホッと息をついた。
「どうやら無事に終われそうですわね。」
「良かったです。」
セシル将軍も緊張が幾分溶けたようだった。
「最後にアスター氏へご挨拶に伺いたいのですけれど、その前に砂漠で付いた埃をどこかで落としたいですわね・・・。」
「では領事館へ行って、部屋を用意して貰ってまいります。」
「あ、将軍、出来れば民間の宿が良いのだけれど。」
「承知いたしました。」
そう一言返事をすると部下に任せることもせず、セシルは一人で宿に向かって駆け出していた。
何故領事館やアスター邸ではだめなのか、などと余計な事を彼女は聞かない。それがナタリアには有難かった。
昔、旅をしていた頃と同じ感覚を忘れたくない、というのが一番強い気持ちだったが、その一方では、
「父・・・バダックも、こんな風にして、砂漠の仕事の後はほっと一息ついたのかしら・・・。」
という想いがあるのも嘘ではなかったからだ。
今ではもう会うことの叶わない、私をこの世に誕生させてくれた父と母。その想いを少しでも身近に感じたい時は、 母シルヴィアが好きだったというバチカルの港の夕日を見に、一人で行ったりする時もある。
「王女ナタリアと一般の民メリル。どちらもわたくしですもの。」


「ナタリア様!」
宿から戻ってきたセシルが駆け寄って来る。
「この街に現在、ダアトから導師様がいらしているそうです。」
すると間もなく、商店の集まっているエリアの方から、
「ち、ちょっとー!待って下さいよぉー!」
よく聞き覚えのあるカン高い声が聞こえてきた。
「こっちだよアニス!ほらっ、それよりこれ見てよこれ!」
これもまた聞き覚えのある、それでいてよく知っているそれとはまた違った、明るくハキハキした響きのある声がしてきた。
「今日はお店を見て回ってる暇はないんですよぅ!」
「凄いな~このブウサギ?っていうの?なんでこんなに臭いの?
アニス、なんで?なんで?」 近づいて見てみると、声の主はやはりアニス・タトリンだった。 その隣にはアニスに袖を引っ張られ、それでも店の前から動こうとしない 、かつてのイオンそっくりの格好をした、フローリアンの姿があった。
確か少し前に、彼は正式に導師に任命されたと聞いていたのだけれど、それにしては・・・?とナタリアは思う。

気を取り直して、アニス、と声をかけようとしたナタリアの真横を、 物凄い勢いでフローリアンが埃を立てて駆け抜けていった。
「もうっ!!フローリア・・・じゃない、導師様ってばぁー!」
アニスはカンカンに怒っている。
「あ、ナタリアー!!」
ようやくナタリア一行に気付いたアニスは、駆け足で近づいて来た。
「お久しっ!折角会えて嬉しいんだけど、私達導師様、あ、フローリアンの事ね、 のお供で来たからもう出発しなくちゃいけないの。それなのに導師様ったらあんな調子でほんと、困っちゃうよ!
ダアトではもう少し、導師様らしく振舞ってくれてはいるんだけどね~。あ!招待状ありがと!でもあれってさ・・・・ きゃーっ!! フローリアン、そっちはダメだってばあーっ!!ナタリア、ごめん!また今度っ!!待てぇーーこのぉーーーっ!!」
「・・・・。」
一方的に自分の事だけしゃべって、アニスは全速力でフローリアンを追いかけていった。
「─相変わらずですのね。」
くすくすとナタリアは懐かしい光景に笑った。
イオンそっくりなフローリアンの傍にいて、アニスはいつもと変わらなかった。
「中身は別人ですものね。」
そう呟いてナタリアは、
中身が別人でも、見た目が本人そっくりな人間と一緒にいる事が出来るだけでも慰められるのかもしれないですわね・・・ と少しでも思ってしまった自分を恥じた。

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