DropsⅣ vol.4

ED後の話

「蒸し暑くて息苦しいのは活動が活発な証拠ね。」
その日、ティアはザレッホ火山の地熱発電所に、出力数値の計測に来ていた。これは、ローレライ教団及び神託の盾騎士団の通常職務の他に、導師に命ぜられて行っている仕事の内の一つだった。
ここでは現在、新燃料の一つでもある地熱発電が行われていた。
ザレッホ火山の地下2000mのマグマで熱せられた、摂氏300度の蒸気の力でタービンを回し、発電させている。
その電力を変換して充電し動力とするように、既にアルビオールなどは造り変えられてあった。


新燃料といわれるものの中で、地熱発電方法は前燃料を使用している頃から、実はベルケンドで構築されてはいたが、地核停止後、研究が盛んに行われたのはバイオ燃料の方法であった。確実に運用できる燃料、として予測されていた地熱発電ではあったが、マグマ発生地点の発掘、及びタービン等の設置費用がかなりかかってしまう、という意味で、積極的に運用されてはいなかった。
第一、記憶粒子を使った前燃料においては、それを発生・収束させるプラネットストーム自体創世記時代に造られて、既に存在しているものであったのだから、そもそも開発費用などが必要無い。維持費や使用自体もタダ同然なのであるから、地熱発電には当時、誰も見向きもしなかったのである。
しかしプラネットストームが消失し、記憶粒子が利用出来なくなった現在においては、バイオ燃料と共に、新燃料時代を築く魁、となりうる技術であった。キムラスカとマルクト両国はそこに目をつけ、以前と変わらぬ布施を収める代わりに、ザレッホ火山に一番近い都市でもあるダアトの、ローレライ教団にその発電所の管理運営を任せていたのだった。
預言を詠まなくなった教団においても、極端に仕事の減った第七音素譜術士や、その他の音素譜術士、音律士であるティアにも、新しい役割と仕事を与える必要があった。それだけに、両国から押し付けられた形を取ったとはいえ、ザレッホ火山発電所の仕事は、教団にとっても都合が良かったのである。
風力のように気象条件などに左右されることもなく、バイオ燃料のように生産量に依存されることもないこの新燃料においては、発電出力換算によれば、未発掘未使用の地熱資源量は、以前のプラットストームを活用した頃とほぼ変わらず、タービンの維持費などを含めても、発掘費用を除けば、バイオ燃料より単価辺りは安くなる、という話だった。

そんなザレッホ火山だが、ティアにとっても大切な場所であった。
ティアの身体に充満した瘴気を引き取ったレプリカイオンは、この地でその短すぎる命を散らした。ティアが今もこうして生きていられるのは彼のおかげでもあるのだ。
ティアはここに来る度に、必ず大譜歌を歌っている。
少しでもイオンの慰めになれば、という思いと、その時から新しい自分となって出発をすることになったこの地を、自分の心に深く留めておきたい、という思いがあるからだった。
そしてここには、自分に新しく課せられた職務の遂行場所、地熱発電所がある。
この新燃料とは今後も、長い付き合いになりそうな予感がティアにはしていた。
それは以前にガイが言っていた、“新生ホド”の復興とも、深い係わり合いがあるからであった。
魔界に降りたとはいえ、このオールドラントの大地は、元の配置で融合し、東西に長く伸びている、所謂火山ベルト帯上においては、ザレッホ火山と同じ帯にホドも置かれていた。そのため、現在はまだ海底ではあるが、ホドの真下にもマグマ発生地点群があり、発掘さえ出来れば、地熱発電が新生ホドにも恩恵をもたらしてくれるはずであった。

ティアがガイにこの話をしに行った時、ガイも既に知っていた。
やはり彼も、新生ホドでのこの供給機関の維持・運営を、と考えていたようであった。
「その時、ティアの経験は必ず役に立つ。だから君に期待しているのさ。」
とガイは笑い、
「それまでしっかりと研究しておいてくれよ。そして俺を助けてくれよな。」
とも言った。

「新生ホドが誕生したら、私はそこで一生暮らしたい、と思うわ。」
ティアはそう思ってきた。ガイならいくら時間はかかっても、必ずいつかはやり遂げてくれるだろう。
両親が、ヴァンが、祖先が暮らした、まだ見ぬ私の故郷。
自分がその本当の姿を見ることはもうないけれど、たとえそれがレプリカだとしても、その面影を復活させてくれたなら、自分はきっとそこを、新たな自分の出発点とするだろう。

出発点。
ティアはタタル渓谷を思い出していた。あそこは彼の出発点だった。
「私の出発点に、“ルーク”も居てくれたなら・・・。」
恐らくは叶うことのない、自分の心に湧いてきた密やかな願いごとを、ティアは自分の我侭の様に思えて、必死になって打ち消そうとしていた。
<終。 ─Ⅴへ続く─>

Page Top