DropsⅩ vol.4

ED後の話

ダアトの教団内部の気の遠くなるような長い廊下を、「0」の沢山刻まれた、ガルド小切手を片手に持って、アニスは勇み足で闊歩していた。
「全く。あいつってば、何考えてんの。」
自室で教団の収支報告書に目を通していたフローリアンは、ドンドンッ、と、いつもにも増して激しく叩かれた扉から入ってきたアニスの形相を見て目を見張った。


「一体どうしたというのですか、アニス。」
「どうもこうもないですよっ!導師。」
ドスン、とまた大きな音をたてて、フローリアンの近くの椅子に腰を降ろしたアニスは、これを見て下さい、と言って、手に持っていた小切手をフローリアンの机の上に勢いよく置いた。

「これは・・・すごい金額ですね。」
「でしょう?!“ルーク”が送ってきたんですよ。」
「“ルーク”が?」
フローリアンが尋ねると、
「しかもアイツ、あたし宛に送ってきたんですよぅ!」
と憤慨したように言った。

「そりゃ確かに前のルークには、寄付をお願い、ってアイツに伝えておいて、とは頼んでありましたけど。 でも“あたし宛”っていうのは普通、冗談にとるじゃないですか。それをアイツってば真に受けて、いきなりこんな大金送ってきたんですよ! 信じられますぅ?!
これじゃ、あたしがこれを教団に入れないでパクっちゃっても、全然バレないじゃないですか。あたしを信用しすぎだっつーの。 ほんとアイツってば、律義者っていうか、馬鹿正直っていうか。」
と続け、頬をぷぅ~と膨らませていた。
そんなアニスの顔を見ていたフローリアンは思わず、くすっ、と笑った。

「何が可笑しいんですか、導師。」
アニスが心外だ、というように問い詰めるとフローリアンは、
「だって・・・。」
と言ってまた、くすくす、と笑いながら言った。

「だってアニスが、自分が悪者に見られていないことに腹を立てているなんて。そりゃ僕だって笑ってしまいますよ。」
と、笑いを堪えきれない、というように続け、
「しかも寄付を頼んでおきながら、その金額の大きさにまた怒っている。それでは“ルーク”だって困ってしまいますよ。アニスは人が好いんですね。」
と言った。

フローリアンにそう言われてアニスは、
「人が好い?!あたしの腹の中は真っ黒ですよぅ!フローリアンだってよく知っているクセに。」
とつい、敬語を忘れて喋っていた。
「本当に心底真っ黒な人なら、そんなこと言い出したりしませんよ。」
とフローリアンは言い、そして、“ルーク”は無事元の場所へ戻ったのですね、と問うた。
アニスは、あっ、そうそう、そうなんですよぅ、と先程の怒りも忘れたように話し出した。

「アイツ意地張るの止めたみたいで、やっと大人しくキムラスカへ帰ったらしいです。んで、戻った早々これを送ってくれたみたいなんですよぅ。」
アニスは小切手を指差した。
「でもいくらあたしが前のルークに頼んでおいたからと言っても、普通あたしの真意、っていうか、何かそういうの、自分でも確かめるじゃないですかぁ。なのにそれもしないで、いきなりこれを送ってきたんですよぅ。信じられなくないですかぁ?実はアイツってば、底なしの良い人なのか、はたまた、底なしのマヌケなのか・・・。」
「ひどいこと言いますね。」
と苦笑し、そしてフローリアンは言った。

「あの方はきっと、前のルークを信じていたんですよ。彼の、人を見る眼も。
だから何も聞かずに送ってくれたのではないか、と僕は思いますよ。」
そうなのかな、とまだ不服そうにしているアニスに、にっこりと微笑むと、フローリアンは続けた。
「僕だってそうです。アニスを信じた前のイオンのように、信じていますよ。
アニスのことを、心から。」

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