迷い猫 vol.4

アリエッタとオリジナルイオンの話

「・・・ねぇ、アリエッタ?」
「何ですかイオン様?」
ザレッホ火山で別れるよりか何日か前に、ヴァンやモースと一緒にどこからか戻ってきたイオンはアリエッタを散歩に誘った。
ダアトの礼拝堂の前にある教団の庭園は少々狭いが、芝生がよく手入れされていて居心地が良い。身分上あまり気安く出歩けないイオンは、気分転換したい時などよく彼女を連れて、この庭園にやって来ていた。
最近は導師守護役も連れて行けない場所に用事があると言って、彼がアリエッタを伴わずに出掛ける回数が頻繁になってきた。そして帰ってくると彼は必ず散歩に行こうと言い出すので、きっととても気が張るお仕事なのだろう、という風にしか、その時のアリエッタは考えていなかった。


ローレライ教団の中で導師イオンは、見事な手腕を振るっていた。マルクトとキムラスカの停戦をさせた先代エベノスが崩御し、導師の座をかなり若くして引き継いだイオンは、当初は何故この若さで導師に導かれたのか不思議に思っていた様だったが、その後はめきめきと頭角を現し、現在は教団の最高指導者として堂々たる地位を確立していた。
しかし彼は、裏でのもう1つの顔を持っていた。反乱分子に対して浴びせられる辛辣な言葉の数々や、制裁と呼べるほどに厳しすぎる処罰を課すので、そんな彼の姿は時に、教団員達を心底震え上がらせた。素朴な少年がある日を境に、突然豹変してしまった、何かに取り憑かれでもしたのではないか、というのが彼に対する、教団内部での陰の噂だった。

しかし彼は、アリエッタの前ではそんな姿は微塵も見せず、彼女にたいしてはいつもとても優しく暖かく、時には大声を出して笑い転げる、といった普通の少年だった。
彼女はその優しさや、裏表のない笑顔が自分だけにむけられている、という事には気付きもしなかったが、二人で過ごす時間を宝物の様に大事にしていた。 彼もそんな彼女を大切に思い、とても可愛がっていた。恋と呼ぶには初々しい、そんな純粋な想いを持ち合った二人だった。
そんな散歩の途中、イオンはアリエッタの方を真っ直ぐ向き直り、言った。

「いいかい、アリエッタ。これから僕が言う事をよく聞いて。」
「はい、イオン様。」
いつも以上に真剣で厳しい眼差しに、アリエッタはぴんと居ずまいを直した。

「近いうちに僕は、君に会うことが出来なくなる。」

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