Stalwarts vol.9

六神将/リグレットの話

「私が生まれたホドは、それは美しい街だった。明るく活気に満ち、こぞって人馬が行き交っていた。
人々は暖かく礼節を重んじ、街中が芸術や音楽で溢れていた…。」
語りながらうっとりとした目つきになって、ヴァンは虚空を見上げている。


「土地の貴族に仕えていた私の父は、剣に関して一流の腕を持ち、忠義に厚く懐深い人物で、
身分を問わず皆に慕われていた。そんな父は、幼少の私の誇りであった。」
リグレットは黙って聞いている。
「眉目秀麗で心根優しい、穏やかな母との三人での生活は、例え将来家族が増えたとしても一生続くものだと、
その頃の私は疑いもなく信じていた。」
「・・・・・・。」
「しかしあのホド戦争によって、その全ては一瞬にして消え去ってしまったのだ。」
ヴァンは自分の両方の手の平を広げて、それをじっと見つめながら言った。

「全ては仕組まれていたのだ。ユリアの預言を盲目的に信じ、遵守しようとする輩にな。」
リグレットは黙ったままヴァンを見続けていた。その形相が見る間に悪鬼に変わってゆく。
それと共に、ぎゅっと固く拳に握られたヴァンの手が明らかに震え始めていた。

「奴等は私の超振動を利用し、二国間の戦争と見せかけて私に、
私の大切な故郷であるホドを消失させたのだ!」
「!」
そんな裏側の事実があったなどとは。
初めて知ったホド戦争の真実にリグレットは愕然とした。
ヴァンは斜に構えたようにリグレットに問う。

「私と母、そして、その時母の腹の中にいたティアが辛うじて助かったのは何故だと思う?
魔界へ崩れ落ちていく大地の上で人々がなせる術はなかった。私は、私の家族を守る為に譜歌を謡った。
自分達の身だけで精一杯で、大地と共に落ちてゆく人々を助ける事など出来なかったのだ。」
「・・・・・・。」
「─出来なかったどころか、そんな目に合わせた超本人がこの私だったのだからな。」
そう言いながらヴァンは、酷く歪んだ暗い笑みを見せた。

胸がずきり、とした。
ヴァンは自嘲気味に笑い続けている。
その笑い声を聞きながら、リグレットは考えていた。


何だったのだろう。今の表情は。
ヴァンがほんの一瞬だけ垣間見せた、心の奥深くまで傷つけられた様な表情は…。
今自分の目の前にいるヴァンの表情とは全く違ったその面差しの記憶に、リグレットは困惑し、密かに心を痛めた。
リグレットには幼少のヴァンの、悲痛な叫びが聞こえた気がした。

リグレットのその心の動きに気付いたからなのかどうかは分からないが、フン、と一息鼻で笑い、
顔を歪めているリグレットに向かって説明するようにヴァンは言った。
「…かといって私は自分を責めるつもりなど毛頭無い。預言を頼ってそれを全うさせたのは奴等の方だからな。」
「・・・・・・。」
そしてヴァンは笑うのを止め、既に銃を降ろしかけているリグレットを、再び悪鬼の形相で見やって宣言した。

「─私は、私から全てを奪った愚かな人間共を決して許さない。
私はユリアの預言に縛られない、理想の世界を創造するのだ!」
ダン!と拳が机に叩き落され、その大きな音と共にヴァンは立ち上がった。
リグレットはその感情の高ぶりの激しさに、身動ぎ一つ出来ずにいた。
ヴァンのそんな姿を、初めて見たせいもあるのかもしれない。
しかしそれ以上に、ヴァンが掲げた理想の壮大さと果てしなさに、思わず呆然としてしまっていたせいだと言えよう。

「私はユリアの預言を覆す。その為には手段は選ばない。
どうだ、リグレット。ここまで聞いてお前がまだ私を撃つつもりなら…今ここでそうするがいい。」
立ち竦んでいるリグレットに向かってヴァンは、両手を広げたままゆっくりと歩を進めた。
目の前まで来るとヴァンは、さぁ、と、リグレットに促す様な仕草をしてみせた。
しかし銃を握ったままになっているリグレットの眼からは、とうに戦意は消え去っていた。
「・・・・・・。」
何も出来ずにいるリグレットに対してヴァンは静かに語りかけた。
「…そうかリグレット。それでいい。」
そしてヴァンは既に降ろされていたその両手首を上から掴むと、拳銃を奪いもせず、
ただそのままの状態でリグレットを諭す様に言った。

「お前も、お前の弟を死に追いやった、ユリアの預言を憎んでいるであろう?
私の言う新しい世界の基本は、徹底的に預言を否定する事から始まる。そしてそれを私は確実に成す事が出来る。
リグレット、私に従え。理想の世界の実現に、お前の力を貸せ。
そして共に、預言から開放された新しい未来を創造しようではないか。」

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